炊いた精白米の食物繊維量が増えてしまった話
ある日、我が家にある2024年に出版された食品成分表を眺めていたら、炊いた玄米より白米の食物繊維量が多いことに気が付いた。米粒の食物繊維量は『玄米>白米』なのに、炊いたご飯との比較では『玄米<白米』と逆転している。はて、誤植?と訝しく思い前書きなどを読んでみると、どうやら炊いた白米だけ新しく採用された分析方法の結果が記載されていたようだ。なんだ、そういうことか。20年以上、玄米寄りの生活をしている私は少々焦った。せっかくの機会なので、この不思議な逆転現象の原因を以下にまとめてみた。
Q:白米と玄米はどちらが食物繊維が多く含まれている? |
A:玄米 |
Q:食品標準成分表2015年版(七訂)で炊いた玄米と白米の食物繊維量を比較すると |
A:玄米1.4g 精白米0.3g(うるち米100g当たり) |
Q:食品標準成分表2020年版(八訂)で炊いた玄米と白米の食物繊維量を比較すると |
A:玄米1.4g 精白米1.5g(うるち米100g当たり)←食物繊維量の逆転現象 |
Q:なぜ、炊いた精白米の食物繊維量が増えたの? |
A:炊いた精白米が、新しい分析法(AOAC2011.25法)で測定されたため |
Q:従来の分析法プロスキー変法とは? |
A:高分子量水溶性、不溶性(難消化性でん粉を含めず)を合計 |
Q:2018年以降、一部の食品に適用された分析法、AOAC2011.25法とは? |
A:高分子量水溶性、低分子量水溶性、全ての不溶性(難消化性でん粉含む)を合計 |
Q:炊いた精白米の食品繊維量が増えてしまったように見える理由は |
A:従来測定できなかった低分子量水溶性と不溶性の一部(難消化性でん粉など)が加算されたため |
Q:新しい分析法(AOAC2011.25法)のメリットは? |
A:食物繊維と類似の働きをする難消化性のオリゴ糖や難消化性でん粉が測定できる |
Q:炊いた精白米(うるち)の他に、AOAC2011.25法で測定されている食品は? |
A:難消化性でん粉を比較的多く含む食品(マカロニ・スパゲティ、じゃがいも、そば類、うどん類、中華麺類、豆腐類など) |
Q:プロスキー変法とAOAC2011.25法の値が書籍内に混在している場合、どうやって見分ける? |
A:備考欄をチェックする(小さな文字でAOAC2011.25と記載されている) |
日本食品標準成分表は、戦後、国民の栄養改善の見地から生まれた
我が家にある食品成分表の正式書籍名は「新食品成分表FOODS2024」(2024年3月1日発行/編者:新食品成分表編集委員会/発行者:星沢卓也/発行所:東京法令出版株式会社)。これは文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会報告「日本食品標準成分表」の数字を基に作成されている。この日本食品標準成分表が一般に「食品成分表」と呼ばれているもの。文部科学省の科学技術・学術審議会資源調査分科会が定期的に公表している報告書だ。
文部科学省のウェブサイトによると「日本食品標準成分表」は【戦後の国民栄養改善の見地から、食品に含まれる栄養成分の基礎的データ集として、昭和25年に初めてとりまとめられました。以来、70年以上にわたって改訂・公表されています】とのこと。昭和25年とは西暦1950年。終戦の昭和20年(1945年)からまだ5年しか経っていない時代。私の父は昭和13年(1938年)生まれだから、終戦当時7歳。昭和20年(1945年)というのは、命辛辛(いのちからがら)満州から日本に帰国して5年後だから12歳。まだ小学6年生の育ち盛りの少年だ。なかなか食料事情が厳しかったようで、子供の頃の夢は「ご飯をお腹いっぱい食べること」とよく話していたものだ。
文部科学省ウェブサイトの説明の続きを読むと【・・この成分表は、栄養指導や生活習慣病の予防などの観点から、学校給食や病院等の給食の場や食事療法の問題等を抱える一般家庭でも活用されているほか、教育・研究や行政においても広く活用されています・・】とある。学校給食や入院の食事などの基本データとして重要な役割を果たしているのだとわかる。
日本食品標準成分表・炭水化物の改訂について
「日本食品標準成分表 文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会報告」は定期的に改訂され、毎回、収載食品の種類が増えている。熟読してみると非常に興味深い資料だ。炭水化物に関する最近の改訂は下記。大きな改訂が2015年と2020年。その間に修正・追加情報を加えた小さな改訂を追補としている。
この文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会報告報告「日本食品標準成分表」を受けて、各出版社が独自の「食品成分表」を作成している。本を買う前に「文部科学省のいつの報告書が収載されているか」を確認しよう。
下記は最近の炭水化物の改訂履歴。2018年の報告書から新しい分析法が採用され、一部の食品項目について食物繊維量の数値が変更された。
炭水化物成分表の名称 | 公表年 | 分析法 |
日本食品標準成分表2015年版(七訂) 炭水化物成分表編 | 2015年 平成27年 | プロスキー変法 |
日本食品標準成分表2015年版(七訂) 追補2016年炭水化物成分表編 | 2016年 平成28年 | プロスキー変法 |
日本食品標準成分表2015年版(七訂) 追補2017年炭水化物成分表編 | 2017年 平成29年 | プロスキー変法 |
日本食品標準成分表2015年版(七訂) 追補2018年炭水化物成分表編 | 2018年 平成30年 | 一部項目にAOAC2011.25法 ※プロスキー変法値と混載 |
2019年における日本食品標準成分表 2015年版(七訂)のデータ更新炭水 化物成分表編 | 2019年 令和元年 | 一部項目にAOAC2011.25法 ※プロスキー変法値と混載 |
日本食品標準成分表2020年版(八訂) 炭水化物成分表編 | 2020年 令和2年 | 一部項目にAOAC2011.25法 ※プロスキー変法値と混載 |
ちなみに、今回の炊いた白ご飯の食物繊維だけが増えてしまったという話は、追補2018年からなので、翌年2019年に出版された食品成分表から、新しい数値が掲載されている。プロスキー変法とAOAC2011.25法の値が混在しているので要注意。多くの場合は備考欄に非常に小さい文字で「AOAC・・」などど記載されている。ちなみに我が家の成分表では、AOAC2011.25法を適用した項目の備考欄に小さな▲印が記載されていた。老眼の方は要メガネ(笑)。
AOAC2011.25法で新たに測定できる食物繊維が増えた
より正確に、より詳細に各成分が測定できるようになるのは良いことだろう。欲を言えば白ご飯だけでなく全ての穀物を一斉に発表して欲しかったけれど(笑)収載食品数がとにかく多いので全てのデータが揃うのには時間がかかりそうだ。分析法の変更時には、本の前書きとして詳しい説明がなされている。次の説明は、AOAC2011.25法の成分値が最初に記載された食品成分表から引用した。
【穀類、豆類、きのこ類等の一部の食品の食物繊維について、これまでの水溶性食物繊維、不溶性食物繊維に加え、難消化性オリゴ糖や難消化性でんぷんも測定できる新たな分析法による成分値が収載されました。成分項目としては、「低分子量水溶性食物繊維」および「高分子量水溶性食物繊維」が加わりました。高分子量水溶性食物繊維はこれまでの水溶性食物繊維と類似の成分です。難消化性でんぷんは不溶性食物繊維に含まれます・・・】食品成分表2019本表編/女子栄養大学監修/文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」「追補2016年」「追補2017年」「追補2018年」準拠より
上記の挿絵のように、低分子量水溶性が0gから0.9g増、不溶性が0.3gから0.6gで0.3g増、合計1.2gが炊いた白米の食物繊維量に新たに加えられた、というのが増加の理由だった。つづきは後編へ
今回の謎解きの過程で、私達が日頃、健康本などで見聞きする栄養成分は、文部科学省が作成している「日本食品標準成分表」の数値が基礎になっていたことを初めて知った。戦後の栄養不足改善の目的で始まったようだが、今現在は、栄養過多の大人達の為に役立っている感がある(苦笑)。後編は難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)や食品成分データベースについて少し書いた。2024年9月
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