不動産業界の方へ、こんな敬語を使っていませんか?よろしければ「こちらの記事をお読み下さい」

今日が人生で一番若い

「拝見」は見るの謙譲語(けんじょうご)

2021年頃、とある中古物件の内覧に行った時の思い出。現地で落ち合った不動産販売の男性が、爽やかな挨拶の後「では、こちらの資料を拝見(はいけん)して下さい」と私に物件情報を差し出した。ん?拝見?俺の作った資料をありがたく見ろ、ということ?
この場合は「こちらの資料をご覧下さい」が正解だ。彼の将来の為に突っ込みを入れたかったが、なにせ初対面。しかも一瞬の出来事で彼はもう次の行動に移ってしまっている。仕方がない・・いつか親切なお客さんが指摘してくれることを期待しようと胸に納めた。彼は若いとはいえ新人という感じではなかった。先輩に教わる機会も無いまま中堅社員になってしまったのだろう。

それから3年。つい数日前の出来事。またしても不動産業界。事務を担当している女性社員から契約書類などを渡された際に「では、こちらを拝見して下さい」と言われた。うーん・・また拝見か。この場合の正解は「こちらをご覧下さい」または「こちらをお読み下さい」だろう。その場には先輩社員が数人いたから指摘したら彼女が恥をかく。おせっかいはやめた。彼女は恐らく先の青年と同じ年頃だ。この世代は学校であまり敬語を学ばなかった世代なのか、不景気で企業が採用や入社研修を中止した頃の新人か?そのような訳で、急遽この記事を書くことにした。彼らに届きますように(祈)。

とりあえず、これだけは押さえておきたい表現

例1:あなたは不動産会社の営業職です。
物件の内覧希望者に物件情報などを渡します。
こちらの資料をお読み下さい。
こちらの資料をご覧下さい。
こちらの資料をお受け取り下さい。
とりあえずこれだけ練習しよう。迷ったら「こちらをどうぞ」だけでも。基本は丁寧語と少しの尊敬語を使うと程よい感じになる。

例2:あなたは投資物件を扱う不動産会社の社員です。
ある日、顧客である投資家から「とても勉強になるよ」と本を贈られました。
ありがとうございます。拝読します。
これが自然に使えるとスマートな印象。近頃は「・・させて頂きます」乱用時代なので、今風で「ありがとうございます。読ませて頂きます。」という感じでも正解。「拝読致します」も使えるが二重敬語はややくどいので、余程の高貴なお方(笑)と話す以外はシンプルが爽やかだ。
もし親しい間柄ならば「ありがとうございます。読んでみます」という簡潔な丁寧表現で構わない。相手との距離によって色々なパターンがある。経験を積むと自然に使い分けられるので、若い頃から意識的に使ってみることが大切だ。

テレビ・ラジオで聞く少し耳障りな表現
⚠️拝読させて頂きます(ダブル謙譲語でくどい)→日常会話では謙譲語はひとつで十分
⚠️伺わせて頂きます(ダブル謙譲語でくどい)→伺います、で十分
⚠️お伺いさせて頂きます(くどい)→お伺いします、or(ややくどいが)お伺い致します
美化語・尊敬語・謙譲語を重ね過ぎると慇懃(いんぎん)且つ、しつこい印象なので(皇室行事でなければ)極力シンプルな表現がカッコいい。

アイドル系司会者が時々使う気持ちが悪い表現
❌読まさせて頂きます→🆗読ませて頂きます
❌作らさせて頂きます→🆗作らせて頂きます
これはこの10年で耳にする気持ちが悪い表現NO.1。NHKアナウンサーを手本に美しい表現を耳から覚えよう。手本にする人を間違えないこと(笑)。

・・させて頂きます、の思い出

私が「させて頂きます」に違和感を覚えたのは2005年あたりだったか。ある時、知人のピアノ教室の発表会に行った。司会進行役はフリーランスの司会者だった。以下、オープニングの一部。

「させて頂きます」連発
1)本日の司会を務めさせて頂きます○○と申します。
2)○○時から始めさせて頂きますので、もうしばらくお待ち下さい。
3)では、これより○○ピアノ教室コンサートを始めさせて頂きます。
4)最初の曲は○○さんのトロイメライ。○○さんのコメントをご紹介させて頂きます。

と、終始この調子。間違えではないが、どこかおかしい。例えば、主催者が勝手に開始時間を変更した、セミナーで天丼を提供する予定だったがやむを得ない事情でカツ丼になってしまった、など「勝手にさせてもらった」「こちらの利益の為に変更してしまった」という場面では「(誠に恐縮ですが)させて頂きます」「させて頂きました」を使う必要があるだろう。しかしそれ以外の場面では他の表現も可能だ。たまには変化をつけてみよう。

「させて頂きます」抜きの例(より丁寧な言い回しはあるが日常業務ではこの程度でOK)
1)本日の司会を務めます○○と申します。
2)○○時から開演となりますので、もうしばらくお待ち下さい。
3)では、これより○○ピアノ教室コンサートを始めて参ります。
4)最初の曲は○○さんのトロイメライ。○○さんのコメントをご紹介します。

1)言い換え例:司会を務めます○○と申します。
ピアノ教室の発表会の司会は、私たちのような観客に断りを入れる必要はないので「させて頂きます」などと言わなくてもOK。例えば、同業の先輩アナウンサーを前に、自分が司会を務める場合などは、「若輩者で誠に恐縮」という気持ちから「司会を務めさせて頂きます」と述べる場合もある。
2)言い換え例:○○時から始めます。開演します。開始致します。開演致します。
これも、開始が予定通りならば普通の丁寧語で。より恭しく(うやうやしく)述べたければ「致します」「させて頂きます」を使うこともできる。
3)言い換え例:コンサートを始めます。始めて参ります。始めて参りましょう!
予定通り始まるので(2)と同様に普通の丁寧表現で十分。より丁寧さを加えたい場合は「させて頂く」でも構わないが、連続使用を避けるならば行くの謙譲語「参る」を利用するのもあり。
4)言い換え例:コメントをご紹介します。コメントを紹介致します。
ピアノ教室の生徒さんのコメント文を読み上げるだけなので「紹介します」で十分丁寧だが、より丁寧さが欲しい場合は「ご紹介」にしたり、しますを「致します」にしたり、少し変化を加える。

まずは簡単な本を読む・美しい日本語を聞く・言ってみる・慣れる

私が子供の頃、「兼高かおるの世界の旅」というテレビ番組(1959-1990年)があった。ジャーナリストの兼高かおるさんが様々な国を取材した映像を解説しながら、聞き手の芥川隆行さんと二人で会話するというものだ。当時は今ほど気軽に外国へ行く時代ではなかった。小学生だった私は、見たことのない珍しい外国の映像に夢中になった。それだけでなく、兼高さんの日本語の美しさに、子供ながら心地良さを感じたものだ。私の最初の憧れの女性かもしれない。

最近のお気に入りは小川沙良さん。彼女は2023年1月から、J-WAVEの9:00-12:00AM枠ACROSS THE SKYのナビゲーター(司会者)となった。最初は「美しい声の若い女性」という程度の認識で聞き流していたが、次第にちょっと気になり始めた。言葉の遣い方が各場面でとても適切だ。カジュアルな場面では気さくに、改まった場面では美しい敬語が正しく使われている。耳に心地良い。言葉に知性を感じる。後日ウィキペディアで女優さんだと知った。

ラジオは映像で誤魔化せない分、テレビより言葉がさらに大切に扱われる印象がある。先日の投稿で書いた元NHKアナウンサーの宇田川清江さんの日本語も素晴らしい。ひと昔前のアナウンサーからは学びが多い。燻銀(いぶしぎん)の語りを聞くことができる。質の高い日本語に触れよう。口に出そう。そのうちに慣れる。

たまたまある知識だけがすっぽり抜け落ちることがある。私は新人の頃、名刺の扱い方を学ばなかった。1991年に新卒で入社した会社では事務職(女性のみ)だったので名刺は不要、新人研修の内容にはなかった。2度目の就職は2013年。初めて名刺を渡された時は扱いに困った。慌てて本で勉強、若い先輩社員の様子を見て身につけた。お恥ずかしながら未だに知らない日本語も多い。最近では、恐竜が跋扈(ばっこ)した時代、という表現だ。一番厄介なのは、今回のように勘違いして覚えてしまったケースだ。たまたま他者が耳にしてくれれば注意してもらえるのに、そのようなことがたまたま起きなかった。私の場合、食卓の会話でしばしば無知が露呈する。一瞬恥ずかしいけれど、指摘されるのは本当にありがたい。学びに終わりはない。2024年10月

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